「不倫は良いことか悪いことか」という二者択一しかなかったら「悪いこと」と答えるしかないが、俺はその悪事を2年間もやっていた。
最初は不倫など無駄なことをする気はなく、ちょっとした性的興味でミントC!Jメールに登録し、色んな女に絡んでは何もせずに終わっていた。それはそれで刺激的でスリルもあったし、妻以外の女との火遊びはそれで十分だった。だがある女を見つけてからはその遊び心がマジに変わった。好みの女で、情欲の炎が噴く。
「既婚男性でもいいよ…どうせ遊びなんだしね」
「嬉しいこと言うね」
彼女は不倫に肯定的だった。男女が好き合うのは自然の原理で、神様でも止められないと言った。すぐに会い、男女の関係になる。
俺は妻以外の若い女とのセックスを存分に楽しんだ。若い女の体はいい。ぷりぷりしているし、肌もすべすべだし、オッパイも弾力があり、アソコの締まりもいい。そもそも世間ずれしていないから純。彼女といると俺自身が5年くらい若返ったような気になる。不倫も悪くないと思う。
だが俺を信じて疑わない妻のことを考えると、罪悪感が歯痛のようにジンジン響く。
―2年間も遊んだんだから、そろそろいいか…終わりにするか―
彼女との別れを決意したが、問題は彼女が後腐れのない女かどうかだ。こじれると困る。そこから煙が出て、妻が不審火を発見し、逆上して油を注ぎ、大火事にならないとも言えない。
別れを告げるとき、俺は慎重に言葉を選んだ。
「いいよ…もう男女の関係は解消しよう」
彼女は明るく笑った。やっぱり後腐れのない女だった。不倫に肯定的な女は不倫のルールをよく知っていて、竹を割ったように別れてくれるのだと納得。ビルの陰で彼女をそっと抱きしめて耳元で「ありがとう…さよなら」と囁いた。
ところが彼女は意外なことを口にした。
「これからは友達でいてください」
「友達?」
「そう…男女の関係がないただの友達」
これからは自分からエッチを求めないし、貴方から求められても拒否すると言う。過去に男女関係があったことは消せないが、これからは男女の関係をきっぱりなくすと言う。俺は合点が行かない。
「友達でいるメリットは?」
「友達でいたいから…それだけ」
それからは会うこともなく、LINEや電話で会話する程度になった。だが彼女はやたらと過去のことを蒸し返すのだ。
「去年、ほら…クリスマスの夜に行ったラブホ覚えてる? 部屋の中にサンタのぬいぐるみが置いてあったよね…懐かしいわ…あの夜、たしか二回くらいイっちゃったもんっ」
「妻より君が好きだって言ってくれたこと、今でも忘れてないよ」
「たまに貴方のことを思いだして一人で慰めてるのよ…バイブまで買っちゃったもん…通販で」
すでに男女関係は解消され、形式的には「友達関係」になっていることは事実だが。これが後腐れのない女と言えるだろうか。多額の手切れ金を要求したり、払わなければ奥さんに全部喋ると脅したりすることはなく、その点は良心的ではある。だが友達でいるのもどうか。過去のセックスが何度も頭の中で再現され、事実上切れていない。
これは不倫男の身勝手に対する彼女の復讐なのではあるまいか。
俺も俺で彼女に未練があるのか、その友達関係を解消できずにいる。
元の男女関係に戻るのは時間の問題のような気がしてならない。