即エッチ。
出会い系で出会った男女が間髪入れずセックスする関係。
これこそ究極の男女関係で、性欲旺盛な男女が集う出会い系ならではの交流だろうと思う。俺も彼女に会いに行くとき、もし可能であればやってみようとは考えていた。そもそも出会い系の女を求めたきっかけはセフレゲットだったし、なるべく早くエッチに持ち込みたい。愛だの恋だの面倒なことを口にするよりさっさとハメてしまいたい。
知り合った女は20代半ばくらいのつんとした女。OLをやっているらしく、いちおう常識ある社会人としてのていをなしていたが、どこか崩れたところのある女だった。しかも無口で得体が知れず、こちらの何かを見透かしているような油断ならない光が、二重瞼の瞳に浮かんでいる。
「お茶飲みましょうか」
「そうね…喉乾いちゃった」
男女交際の第一歩はお茶だった。
断片的に会話するうちに女の表情や体つきがはっきりしてくる。
正直いい女だった。裸体を想像し、エッチを妄想した。
(この女と即エッチしたい)
だがその衝動的性欲はすぐに姿をひそめた。
即エッチといっても、いざとなるとなかなか切り出せないし、踏み込めない。即エッチに突入するための何かが俺自身に、あるいは二人の間に欠けている。
それでもエッチへの流れを作ろうと言葉で誘導するが、時間とともにエッチから遠ざかっていった。食べ物の話、旅行の話、最近インフルエンザにかかった話。しまいには仕事で失敗した話になり、職場の同僚とため話しているような日常的な雰囲気に包まれた。
最初にまずいなと思ったのは彼女があくびをした瞬間だ。あきらかに退屈そうな顔で、話をするときもだんだんと視線を向けなくなった。二番目にまずいなと思ったのはスマホを見始めた瞬間だ。何かを一時的にチェックしているのではないかと考えたのだが、よく見ると芸能ニュースを見ている。
「どこか行く?」
すると彼女はスマホを見ながら「どこでもいいよ」と答えた。
だが格別行きたいところはなく、すでに即エッチの考えも消失していたのでラブホという選択肢もない。けっきょくその日はそれで終わった。
一夜開けてメールした。思いきってエッチに誘ってみることにした。
「今度エッチとかしてみる?」
「今度っていつの話? この次? それとも次の次?」
つっこんで聞いたら、彼女は過去において即エッチした経験が何度もあるらしい。あの日、なぜ即エッチに誘ってこなかったのかが不思議だったそうだ。
「エッチが嫌いな男なのかしらって思ったわ」
「そんなことないよ」
「え? そうなんだ…エッチ好きなんだ へええ」
そう言うが、あの日どうしても即エッチする気になれなかった。
俺は初対面の女とエッチできない臆病者なのかもしれない。
思いこみかもしれないが、彼女からふられたような気がして、それ以来メールしていない。
彼女からもそれ以来メールは来ない。
今度出会い系で女と出会ったら、とりあえずエッチに誘ってみたい。OKであればエッチするだけだし、NGならエッチしなければいいだけの話。
もしもエッチに誘わなかったら、相手が即エッチ希望の女だった場合、今回のような悲劇に終わってしまう。