出会い系サイトで女をつかまえてデートに持ち込むのは容易なことではないというのが俺の持論だ。世間では楽々と女をネットナンパして会うことに成功し、さらに即セックスみたいな出会い系の醍醐味を味わっている輩も多いが、よくそんなことができると思う。奥手なのか、俺にはハードルが高い。思うようにアクションを起こせない。
サイトでメール交換しているときも、あんまり変なことを書くと嫌われるのではないかと不安になって無難なメールしか送れないし、相手の真意を見極めてからでないとデートにも誘えない。
「そんなんじゃだめだ」
友人も叱咤する。男は必要なときには男にならないといかん。
そんな俺にもようやく相手が見つかった。メール交換20回で遠回しにデートの可能性を聞いたら「ありえる話」みたいな返事がきたので映画に誘ったら「行ってもいい」と言われた。
だがデートではやっぱり奥手の悪い部分が出た。友人の忠告もあったし、彼女をその気にさせようと頑張ったのだが、初日から大胆に迫るのもどうかと思って手を抜き、その日は映画を観ただけで終わった。話もあまりしなかった。
初日は反省点が多かった。
「手も握ってないの?」
友人が呆れる。
考えてみたら俺はあの日彼女の体に触れていない。
「2点ビハインドってところだな…いいか、初日のデートは二回目のデートにつなぐデートでなければならない。プロ野球で言うと先発が6回まで2失点以内に抑えるクオリティスタートだ。それでリリーフにつなぐ…おまえはそういう勝利の方程式を実践したか? 初日のデートは先発ピッチャー、二回目はリリーフだ。そして守護神のクローザーがエッチに持ち込む方程式」
よく意味がわからないが、俺の初デートは失敗した模様。
それでもう一度デートに誘ってみた。彼女は「どうしてもって言うんなら会ってもいい」と返事してきた。野球で言うと、先発はすでに3点以上失点して負けているが、見方の打撃次第では試合をひっくり返せる状態といったところ。
「もっとさ、言いたいことがあれば言いなよ…話はちゃんと聞くし、できることはするから」
二回目のデートで彼女がそう言って苦笑いした。
「この前もさ、もっと男らしく迫ってほしかったんだけどね…あなたってなんだか消極的で」
彼女は俺の奥手をなかば軽蔑していた。
奥手は損だ。
デート初日では失敗覚悟で素早いストレートを投げなければならない。カーブだのスライダーだの遅い玉を投げたら、したたかな女は冷たく打ち返す。
この程度での球速でいいなどと妥協したら勝てない。
彼女に挑発されて、二回目のデートでは手をつないで、ほっぺにキスまでした。そして三回目のデートの約束をした。
試合は九回表。
味方が本塁打を打って、なんとか同点に持ち込んだところだ。
ここからいよいよクローザーが出てくる。